エゴイスト   〜リョーマside〜







「ん……っ」


目を薄く開けると、天井が見えた。

…どこ?


「あ、目が覚めたようだね。…大丈夫?」


クスクスと笑う声。…紛れも無く、アノ人が目の前に居る。


「不二先輩…。何とか、平気ッス。今、何時…?」

「一限が終わった所…かな」


寝すぎた所為か、少し頭が重い。

…まぁ、こうなった原因がすぐ側に居る所為もあるけど。


「…何で、あんな事したんすか?」

「さぁ?何でだと思う?…当てたら教えてあげるよ」


訳分かんない…。

好きでもないのに同性にキスするような人の考えを、当てろって?

無茶苦茶だよ。判るはずがない。


「…分かんないから、訊いてんすけど?」

「そっか。じゃあ教えてあげない」


ムカツク…。笑顔でそういうこと言われると、納得しそうになるけど…

でも、それって可笑しいじゃん。


「俺は被害者ッスよ?訊く権利があるッス」

「へぇ、なかなか口が達者だねぇ。う〜ん…でもね、言った所で君は理解出来ないよ」

「………」

「だって、同性愛者かもしれないだろ?僕が」

「それは違うって、言いませんでした?」

「ううん、言ってない。どうだろうね?とは言ったけど」


ホント、計算高い人だな。

俺が何を訊いても誤魔化せるように、言葉を選んでたんだ。

納得いかないけど…これ以上訊くのが無駄に思える。


「…あの、何で此処に居るんすか?」

「君が僕の前で倒れるからさ」

「副部長も居たじゃん…」

「あれ?僕じゃ不満なのかな?」


にこにこと、油断のならない表情で言葉を繋げる先輩。

…副部長の方が良かった、なんて言ったら呪われそう……。


「別に。でもアンタのこと許してないし。…一人にして」

「…僕、許されなくちゃいけないような事をしたっけ?」


本当に、キョトンとした声調で訊いてくる先輩。


「俺にキスしたでしょっ?」

「あぁ、そのことかぁ。でも…君だって感じてたじゃない」


……?!

何、俺が感じてた?


「あんなに潤んだ瞳でさぁ…。女だったらまず犯される感じだったね」

「あぁ、今の世の中、男だって例外じゃないか」

「君ぐらい可愛かったら、危ないのかなぁ?」

「う〜ん…。でも、それだと僕が甲斐性無いみたいだ」


俺が黙ったのを良い事に、勝手な事をベラベラと喋ってる。

また、頭が痛くなってきた…。


「…兎に角、一人にして欲しいッス…」

「そうだね。ゆっくり休むと良いよ」


アンタの所為で、休む破目になったし、ゆっくりも出来なかったんだけど?!

その言葉を、寸でのところで飲み込んだ。

そんな事を言ったら、また惚けられて終わってしまう。


「じゃ、お大事に…」


確かに保健室を出て行った先輩を見送って、俺は布団に潜った。

ふと、目尻が熱いことに気付いた。

あぁ…もう、何だか辛い。

不二先輩が、ホントに判らない。

零れた涙を手で拭いながら、目を閉じて無理矢理眠った。

その姿を、ドア越しに先輩が見ていたことも知らずに…